店長がバカすぎて【早見和真】

大好きな本に囲まれて、幼い頃からの夢の場所で働いているはずなのに、バカな店長にイラつく日々。

絶対仕事辞めてやる!!

吉祥寺にある小さな書店で書店員をしている28歳、契約社員の谷原京子。

お客様からのクレーム、給料日前になると明らかに食事が粗末になる薄給ぶり、書店の規模に贔屓され思うように本が入荷ができない書店の仕組み。

毎日毎日悩みは尽きないが、仕事を辞めたいと思う1番の理由は店長がバカすぎること。

ただでさえ忙しい開店前、毎朝店長はおすすめの自己啓発本をダラダラと紹介してくる。

無神経な発言は日常茶飯事で、かれこれ長く一緒に働いているにも関わらず人の名前をいまだに間違える。

突拍子もない発言を繰り返しては、無駄な心配をして、心配なんてしなければ良かったと落胆して。店長のせいで京子は落ち着いて働くこともできない。

そんな京子が仕事を辞めずに踏ん張れる理由が大きく2つある。1つは本をこよなく愛する気持ちがあること。

幼い頃、父親に連れられて通った書店で、優しく綺麗な店員さんに勧められた絵本を読むのが楽しみだった京子。それをきっかけに本が好きになった。

自分じゃない人生の追体験ができるのが物語。この鬱屈とした日々でも、本を読んでいる時だけは自分がいなくなり、その物語の中に飛び込むことができる。

そしてもう1つは憧れの先輩小柳真理さんの存在だ。

京子が書店員を目指すきっかけとなったのが小柳さんであり、一緒に働けている今、人見知りの京子にとって唯一気兼ねなく話せる同僚である。

そんな小柳さんが、ある日突然仕事を辞めてしまう。心の拠り所を無くしてしまった京子は、このまま働いている意味が完全に無くなってしまった。

今日も店長はバカだけど、愛する本を通じて働く日々が少しずつ変わっていく。

いい方向に進んでいるのかは分からないけれど、本が好きな人と本の話をしている時間だけは心が救われている。

働く意味ってなんだろう。

やるせない社会に刃向かう気力もない中で、ひたすらおバカに邁進していく店長に、とにかくイラついて、時に驚かされる。

リアルな書店員目線で送る、本屋を舞台にしたエンタメ小説!