ホワイトカメリア【MIYAMU】

ホワイトカメリアのあらすじ

あなたが私の最後の人。愛しています、心から。

数年前に出版した小説で新人賞を受賞した千里は、今はエッセイを書きつつ恵比寿にあるバーcitr0nのオーナーとして働いている。

髪は伸び切り顔色も悪く、常にタバコの香りを纏う千里には、椿というモデルの彼女がいる。

寝たふりをしながらベッドで帰りを待つ椿に、朝方千里は軽くキスをすると、書斎に閉じこもってしまう。

明け方や休日など、触れ合える時間だけが椿にとっては何よりも幸せの時間だ。

citr0nの常連であるフリーランスデザイナーの紫葵には、気に食わない男がいる。

お店に行くたびに異なる女性とカウンターで話し、振る舞いや口調全てを女性用にカスタマイズしているゆるふわ男。

男の策略通りあっという間に距離は縮まり、ムードな雰囲気を醸し出すその男女の空間に毎回嫌気が指す。

ベンチャー社長の和泉臨は、婚約破棄をした元彼女から会って話がしたいと連絡がくる。

神経質な性格の臨のことを誰よりも理解し、仕事が軌道に乗るまでの地獄の時期も支えてくれた彼女。

幼少期には乗馬や英会話の習い事をこなし、父親の投資先の会社の執行役員の秘書として働く。彼女はいわゆる令嬢であった。

昔からモテてきた人生を、今も歩み続けている成瀬。相手が欲しがる言葉をスッと差し出して、持たれた好意は受け取らずに身を任せるだけ。

待ち合わせ時間の5分前に着く自分よりも早くその場にいて、何もせずに立ちすくむ女性には気をつけようと決めている。

一歩足を踏み込んでしまえば、意図せず相手を傷つけてしまうから。

バーcitr0nに集まる6人の男女のもどかしく、やるせない恋模様。

誰かを本気で愛した途端、誰かの物語では悪者になる。
正論はときに暴力になる。

名言溢れるリアルな視線の先は、私の周りにもいるであろうリアルな若者たちの生き様があった。

一生持っておきたい恋愛小説。

ホワイトカメリアの名言

舌の上でざらついた飴を齧り割る。小さくなった飴を、そのまま溶かして飲み込めた例がない。どこかで必ず噛み砕いてしまう。バラバラになった破片は暗闇で彷徨って頬の内側をチクリと刺すことで自分の居場所を知らせる。

あると思っていたはずのものがなかったときのショック、またはそれを駆り立てる欲は、失意を二乗してしまうと思う。仕方なしに大きく深呼吸をした。嘘を吐いた、これは落胆したときのためのため息だ。

自分には、才能に限界を感じると逃げ出す癖がある。自分の悪い癖を自覚した瞬間、大人になったなと感じる。

恋に落ちる音がした。この人に巡り会うための、今までの道程だったのではないかと、くだらない過去を肯定するほどの救いだった。

新月になりかけの薄らとした月が空のピアスのように飾られていた。

相手の気持ちをどれほど先に読み取れるか、何をほしがっているか、その言葉を今言ってあげるのか、焦らして待たせるのか、そんな勘繰りばかりで日々を渡ってきた。

そうです、この俺様こそが女性が描く理想の男性像ですが、いかがですか?話せて嬉しいでしょう?と言わんばかりに隣の女性との距離は近い。頷きのスピードや口調、振る舞い、目線全てを目の前の女性用にカスタマイズしているあいつ。

何事にも大きな期待を抱えてはいけない。いつか失ったときに大切にしていたことを後悔してしまう。サラサラ落ちていく砂時計の砂のように、ただただ時間に推し進められながら順番が来たら死んでいく。

朝からこうやって千里さんと笑い合った瞬間を、雲に遮られず白いカーテンを潜って光が食卓まで届いたこの時間を思い出して、何年後かに涙してしまうのだろうか。

光の届かない深海に沈んだまま、プランクトンを食べて生き存える姿形の悪い深海魚の幸せが、実はこっそりとあるのだろうなと初めて悟った。

結んでいた髪を解きぶるぶると小さく頭を揺らした瞬間、ムスクの香りが舞い込んでくる。青から黄に変わる。幾許かの危うさを兼ね備えていることを知らされる。

窓の高さに合わせて買ったつもりのカーテンの裾は少しだけ足りず、一級遮光カーテンのくせに足元から光を漏らす。大事なところだけ少し足りない、誰かのことを言われているようで毎朝その漏れる青い光に苛立ってしまう。

お笑い見にいくデートは突然温泉旅行に次いでデート界で第二位の憧れだよ?一緒に笑いを共有するんだよ?好きにならないわけないって。あ、、この人おなじタイミングで笑った!ツボが合うんだなー、笑った目尻可愛いなーとか絶対思っちゃうよ。まじで気をつけたほうがいいよ。それは、芸人が面白かったからであって、紫葵ちゃんとその男が運命だったから、ではないからね?

待ち合わせ時刻の五分前には必ずその場にいるようにしている。女性を待たせるのは趣味じゃない。ひとつ自分の中でリトマス試験紙のようにしているのだ、その待ち合わせ五分前を。五分前に着く僕よりも早くその場に着いて、特に何もせずに立ちすくんでぼくを待っている女性には気をつけようと。一歩足を踏み込んでしまえば、意図せずとも相手を傷つけてしまうかもしれない。僕が渡せる誠意はこの五分間程度の誠意だから。それ以上は持ち合わせていない。

面白さより面白味が生活には大事なんだと思います。噛んで味が染みてくるかどうか、ずっと口に入れていたいな、溶けないでいてほしいな、って食べ物あるじゃないですか。ラムネとか、ホルモンとか。面白さは、綺麗な瞬間を絢爛に見せてくれる花火のようなもので、面白味は、ずっと口の中にいてくれるような、秘密にしながら舌で転がしていたいなと思わせるようなものな気がしてます。

よくできた人間をまじまじと見つめると、嫌でも自分との比較をしてしまうので得意ではない。なぜこの人のおかげで私が不遇を感じなければならないのか。

恋は達磨落としのようなものだ。積まれている三つの優しさから、ひとつずつもらっていく。ストンと真横に積木を叩き抜く。三つ全て、その人から優しさを受け取れば、その人は恋の奈落に吸い込まれていく。

彼は探すのが苦手なのではなく、失ったものを諦めるのが得意なのだ。どこかにあるはずのものを、意地でも取り戻そうとする気はない。小説家という肩書きさえも、彼を象るための看板ではなく、さほど意味をなさない、学生時代の出席番号と変わらない価値のものなのだろう。

部員一丸となって頑張りすぎた結果、その年、七年振りにインターハイ出場を決めた。クッパ大王からピーチ姫を連れ戻せると思ってら来る日も来る日も体育館の灼熱地獄を耐え抜いたが、インターハイ終了後、三年生の引退と共に皐月姫は部活に顔を見せることはなくなった。ピーチ姫はおそらく、好んで何度もクッパ大王に連れ去られているのだろう。悪い男には魅力がある。

今日また、成瀬くんが私の部屋に来る。何かを期待したりなんかしていない。期待と絶望は箸のようなもので、ふたつてひとつなのだ。絶望したくなければ期待も捨てるべきだ。そんなことを言いながら、電動シェーバーを体の隅まで転がしているのが、今の私。

昼休みの一時間は短い。七時間働いて、一時間の休憩。五日間働いて、二日間の休み。十八時間起きて、六時間の睡眠。半分半分なんてことはこの世界にないのではと思う。思った分、思ってもらえる、なんてことはないのだろう。

梅雨入りから梅雨明けまで一ヶ月以上もかかるのに、堂々と四季と言い張ってしまうことに違和感を抱く。十二ヶ月の一ヶ月。季節として無視しているのだ。確実にそこにいるのにいないもののように扱うのは学生のいじめと変わらない。スプリング、サマー、オータム、ウインターのように梅雨の英訳がひと単語だったらば五季にしていただきたいと思っていたが、レイニーシーズンとグーグルが返してきたのでわたしは降参した。そうかどの国にも梅雨があるわけではないのか。レイニーシーズンとして大人しくそこに佇んでいてください。

幸せのカタチとしてわかりやすいじゃないですか、結婚。人生ゲームでも絶対ストップしなきゃいけないんですよ、結婚マス。結婚したら、みんなからご祝儀もらえて強制的に祝ってもらえます。離婚マスが唯一ある人生ゲームロイヤルは生産終了しました。離婚できません。離婚したほうが幸せという選択肢が人生ゲームにはありません。

きゅうりって水やん。きゅうりの水分量知ってる?九十七パーセントやで。牛乳の水分量は八十八パーセント。きゅうりは牛乳より水やねん。水なら、食べる意味ないかなって。

怖い顔をして怒ってくる人より恐ろしい人は、興味だけで人の心を踏みつけ荒らす純然とした面をぶら下げた人だ。

本当の友情に男も女も関係ないのよ。少しだけそこに、異性としての魅力を感じているときに、人は男友達、女友達って冠をつけるの。小学生のときはみんなお友達だったでしょ?

知らなくていいことを知らないままでいる努力ができる人が大人なのだろう。知らなくていいことを知ってしまっても知らないふりができる人は大人っぽいだけなのだろう。知らなくていいことをわざわざ知りにいって傷つく僕はまだ幼いのだろう。

哀愁の哀はあはれって意味やろ。情緒深いとか、物悲しいっていう。たとえば桜が咲いています。金木犀が咲いています。わー綺麗やな、去年も今年も咲いてくれたな、嬉しいな、幸せやなって思うやん?それは感謝とか希望の意味を持つ愛やと思うねんな。でもあいつらすぐ枯れよるやろ。川に流れる散った薄紅の花弁。見て、水溜りを埋める赤橙を見て、かなしくはなるやん。でも同時にまた来年って巡るものやってわかりながら、そのかなしさを受け止めてる。そこにはただのsadだけじゃなくてloveもあるやろ。やから愛も哀も同じ読み方にしたんちゃう?

ホワイトカメリアの感想

親の機嫌やお伺いを立てながら育った子は、感情を読み取るのが敏感になる。良くも悪くもそのおかげで人間関係うまく構築できてしまう。

相手が欲しい言葉を読み取り、そっと投げかける。こちらから縋りはしないが、来られた分にはそれなりの対応をする。

それを意識的にされていると分かっていても、沼にハマるのが女性心なのだろうか。私なら彼を変えてみせるという懐の大きな親心なのだろうか。

あなただけには非難する側であってほしかったのに。ついつい毛嫌いしてしまう私の負の感情をガードしてくれる登場人物はいなかった。成功体験を与えたら終わりなのに!!!!

読み進める度にあぁ、、と、落胆と苛立ちを与え、身近にいたら本当に(無理になる男性像)を、見事に表してくれてありがとうございます。ここまで細かいディティールから趣味のコアさ、舐めた言い回しを表現できることに感動。(大絶賛)

キャラ立ちしている上に、言語表現の豊富さと名言の数々。ストーリーとしてはゆるりと進む中、ひとりひとりに感情移入できる密度の濃いシーンの数々。

こんなに人のことを大事に思えて、傷つかせたくないと優しさに包める大人になりたい。相手を想っての決断を潔くできる人格者でありたい。

登場人物が多く場面の切り替えも合わさるため、一気読みした方がスムーズに読み進められるかと。

もう何度も読み返しては、こんな人に出会いませんようにと誓い、全力で恋愛できる素敵な人になりたいと願う、本当に大好きな一冊。